30歳が成人式

先日面談で課長に言われた言葉だった。

 

4月から業務内容が変わり、鬱を再燃した部署に戻るというのは幸か不幸か分からないが会社のワガママ都合により延期された。上半期は事務担当。

そこで先輩から引き継ぎを受けていたんですが先輩がとても気分屋というか、あたりがキツイ人で、それはもう私のメンタルを砕いていった憎き先輩に近しいものがあった。マジトラウマ再来。

 

4月、春、季節の変わり目、環境の変わり目、仕事の変わり目、メンタルの乱高下大会開始。

 

毎日こんな状況で、仕事でもそんなことも考えられないの、とか聞いてもそれ以外に何があるの?だとか何かにつけて言われて教えるのもムラがあって良くわからないといえば怒られて、海抜0m地点に存在していた私の精神はあっという間に海に沈んでいった。何とか沈まないように、浮き輪代わりにワイパックスを服用して、何とか希死念慮という波にのまれないようにしがみついていた。

 

ある日業績評価があるから、と課長に呼ばれた。

 

課長はとても怖い人である。

名前の字面からして怖い人だし、キツイこともバンバンいうし口調も悪い、江戸っ子である。いったい私の何を評価してくれるのか、さっぱりだ……と思っていた。

事務なんて裏方だし、君のいるチームは特にそうだと思う、入社してまだ3年ぐらいしか経ってないけどまとめないといけないから大変だと思う、堅実な仕事はできるんじゃないかな、なんて当たり障りのないことを話してた。ああ、はい、せいぜい会社の言う「普通」に戻れるように善処いたします、ああ、こわい、早く安定剤飲みたいな、ぐらいにしか思ってなかった。

 

突然「ところでね、ネガティブにならないようにする考え方っていうのも、あるんだよ」と言われた。ちょっとびっくりした。「物事を考える時は①最悪Aになる ②Aを回避する選択は何か、そういうことだよ」と。

 

「でもね、いくら②を選び続けても袋小路になるときがある。思考がハマって抜け出せない。もうその時は『ごめんなさい、考えたけどわかりませんでした』でいいんだよ。負ける勇気、諦める覚悟、何か固執することで躓くことの方が多いと俺は思うんだよ。そりゃあ、頑張らずに放り投げるのはダメだ。でも、固執して頑張りすぎるのはダメだよ。」

 

あ、固執、そうか、私は何かに固執してるんだな、どうにもならないことに、と思った。たぶんそれは「普通になること」だったり「病気が寛解すること」も含むなぁと話を聞きながら思った。そういう話を聞きながら言われたのが「今の子は、ある意味君だけではなくて世代論だけど未熟なんだと思う。精神的に。社会だけが高度に発展しすぎてしまった。だから、30歳が成人式だ。君、まだ何年もあるじゃないか、これからだよ。もし自分が負けた、とかここは違う、と思ってもまだ成人も迎えてない。やり直しは聞くんだよ。」

 

私はどうしても、抑えることが出来ずに言葉を漏らした。「でも、私の体調不良は、精神的なものです。それはどうしようもないもので、闘っても負けることの方が多い。負けると、もうどうしようもないんです。今も負けそうなんですよ。」と。

多分限界だったんだと思う。結局誰も助けてくれない、医者も助けてくれない薬はただの延命措置、根本解決は何もしない、この連鎖を断ち切るには死ぬしかない、でも嫌だ、誰か助けてほしい、そういう時期だった。

 

「負けていいんだろ。それが、君の固執だ。なってしまったものは仕方がない。君もなりたくてなったわけじゃないし、それは誰だってそう思う。俺は専門じゃないから、君にとって的外れだったらごめん。でも少なくとも早めに手を打つことでしかできない。そしてそのヘルプコールの発信は君にしかできない。少なくとも俺は分からない。もしかしたら察してあげられる人が世の中にはいるのかもしれないが少ない。だから言わなきゃ分からない。一人で抱えても、持ちきれないだろう。抱えすぎるな、早く手放せ、誰かに持ってもらうんだよ。そういうための、チームなんだから。」

 

そういう話をしながら、だんだん私のメンタルヘルスの話になっていった。でも課長は「どういう症状が起きるか」「前はどうなった」とかそういう事には一切踏み込まずに、「どうすれば固執をなくせるか」のヒントみたいなものを話してくれた。

 

「気分転換、下手だろう。だって興味のあるもんが分からないんだろ。とりあえずやってみるとか、そういうのでいいんだよ。くっだらねーって人が言っても、別にその人から見たらくっだらねーけど当人にとっては価値があるかもしれないだろ。俺だってバイク好きだけど、免許取ったの29歳だぜ。わかんねーぞ。考えて、気になったら調べたり、行動したり、自分の興味を見過ごさないで上げることが大切だよ。後は考えすぎて袋小路になったら、一生懸命歩いてみ。下向いちゃだめだ、上か、前をみたりきょろきょろしながらな。意外と面白いぞ。そうだな、あと言えることは、話したい人、話せる人に相談すればいいんじゃないか。君の場合特に話す相手を選ぶだろう、きっと。いいんじゃないか、話したい人に相談すれば。だから、とりあえず、しんどい時はちゃんと相談しろよ。」

 

面談は45分ぐらいだった。たぶん、本来なら15分ぐらいで終わるだろう。残念ながら私は休職していたので評価できる業績もなければ実績も何もない。もっと短いかもしれない。でも45分、一人の人生の経験者として私に経験則を教えてくれた課長には感謝している。今までは怖い人だと思っていたけれど、もう少しこの人の思考回路だとか、形成過程が知りたいな、という興味の対象に変わった。

 

カウンセラーが適切な答えをくれるわけでも、主治医があっという間に治してくれたり薬が劇的に聞いて1か月で完治するようなものでもない。

でもこういう、ふとした人との対話が、何かをもたらすこともある。

ちょっとしぬのはやめておこうと思った。それだけで上等だ。

 

 

 

でも課長は結構雑だから、「おい、ここの印鑑君のじゃダメ?」「え、なんでそこに押したんですか私押せないから課長に頼んだんですよっていうか書類ミスじゃないですか……エーッつくりなおすからちゃんと正しいところに押してください」「ごめんって。ごめん、わかったよ俺が悪かったでーす」なんてやり取りをする羽目になる。

人間ってよくわからないな。人間コワイと思う時が多いけど、たまにおもしろかったり優しかったりする。だからこそそれが裏切られた時は怖い。

私はいつまで社会で働くことができるのだろう。でもダメになった時は固執せずに捨てるしかない、ただその諦め方を考える必要はあるな、と思う。

 

案外話してみると、人間って分からないもんだな。辛そうな人の話はすこし聞いてもらえると、当人にとって薬になりえる、という当事者からの主観。

 

明日は朝から先輩に怒られに早く職場に行きます。だから月の変わり目は嫌いだ。早く仕事に慣れればこういう気持ちもなくなるのかな。穏やかに生きていきたい。